「自己受容」という言葉をご存知でしょうか。
「自己肯定感なら知っている」という方が多いかも知れません。このページでは、自己受容とは何か、自己受容ができていないとどうなるのか、そしてそこから抜け出すためのヒントをお伝えします。
※文中で「自己受容ができている/できていない」という表現を用いますが、できていない=その人が悪い、という意図ではありません。自己受容ができているかどうかは環境や経験の影響が大きく、本人の問題ではないことがほとんどです。
自己受容とは何か、自己肯定感との違い
自己受容とは、「ありのままの自分を受け入れること」です。
良いところもそうでないところも含めて、「これが今の自分だ」と認めてあげることを指します。
一方で、自己肯定感は「自分には価値がある」「自分は大丈夫だ」と思える感覚のことです。
最近よく耳にする「自己肯定感」ですが、その多くは「何かができている自分」や「長所がある自分」に価値を見出す、いわば"条件付きの肯定"であることが多いように思います。
自己受容は「良いところも悪いところもあるけれどそれでOK」であるのに対し、
自己肯定感は「自分にはこんな良いところがあるからOK」である、
というふうにイメージすると違いがわかりやすいかもしれません。
自己受容ができていないと起こること
自己受容ができていないというのは、言い換えると「今の自分には価値がない」と感じている状態です。
それによって、日常の中にさまざまな生きづらさが生まれてしまいます。
自分を責めすぎてしまう
失敗したとき、「やっぱり自分はダメな人間なんだ」と自分を責めすぎてしまいます。
本来は「このやり方では上手くいかないんだな」というただの検証結果が、自分がダメな人間であることの証拠のように感じられてしまいます。
悔しさをバネにできることもありますが、落ち込みすぎるあまり「もう何をやっても無駄だ」と感じて頑張れなかったり、逆に無理をし過ぎてパンクしてしまうこともあります。
人と比べて落ち込んでしまう
自分の評価軸に自信が持てず、何かに秀でた人を目にするたびに自分と比べてしまいます。
現代はSNSなどで「すごい人」がたくさん目に入ってきます。その人と自分との、「その人の得意分野での」比較が繰り返され、ますます「自分には価値がない」と感じるようになってしまいます。
他人に合わせすぎてしまう
(自分には価値がないと感じているため)自分の感情や意見を後回しにして、相手を優先してしまいます。
一見すると相手に合わせてうまくやれているようにも見えますが、本当の自分を押し殺して無理をしている状態なので、徐々に苦しくなってきます。
人の目が気になり過ぎて人間関係に疲れを感じたり、「自分のことを分かってもらえていない」と感じて孤独になることもあります。
自分の気持ちがわからなくなる
本音よりも「周りからどう思われるか」や「どうすれば認められるか」を優先するうち、徐々に自分の本心を感じ取る力が弱まってしまいます。
好き・嫌い、快・不快、やりたい・やりたくないといった感覚が曖昧になり、日常の小さな選択から、果ては仕事や人間関係などの重要な決断まで、「自分はどうしたいのか」がわからなくなってしまいます。
「自分はこう考えてこうしている」という意思が弱い状態なので、「本当にこれで良いのだろうか?」と不安も感じやすくなります。
自己肯定感が育ちにくくなる
成果が出たり褒められたりしても、「たまたまだ」とか「相手が誤解している」などと感じてしまい、素直に自信が持てません。
自分に対して「条件付きのOK」しか出せていない状態なので、評価されないとすぐに自信を失ってしまい、それまで積み上げてきた自己肯定感も崩れてしまいます。
このような背景から、自己受容は自己肯定感の土台であるとも言われます。
なぜ自己受容ができなくなってしまうのか
このように、自己受容ができていないとさまざまな弊害が生まれます。
自己受容を阻む体験や要因としては、以下のようなものが知られています。
育った環境での体験
- 条件付きでしか褒められなかった
- 兄弟や周囲とよく比較された
- 頭ごなしに否定されることが多かった
- 「どんなあなたでも大切だよ」と伝えてもらえなかった
傷ついた体験
- 感情や弱さを見せたときに、否定されたりからかわれたりした
- 所属する場所で存在を否定された
現代社会の影響
- 成果や効率が重視される社会において、常に他人と比較される
- SNSなどで他人の成功や魅力が目に入りやすく、自分を低く感じやすい
自己受容のためにできること
どんな原因でそうなっているにせよ、自己受容ができていないと生きづらさが生じます。
急に自己受容が進むような特効薬は残念ながらありませんが、 ここでは今日から少しずつ試せる取り組みをご紹介します。
一日の終わりに、自分の気持ちに寄り添う
その日起こったこと・感じたことを、「こう思っちゃダメだ」といった制限をできるだけかけずに紙に書き出す方法です。
そうやって自分のありのままの気持ちをそのまま認めた上で、良いことだったら褒めてあげたり、悪いことだったら「それは辛くもなるね」などと共感してあげたりします。
無理のない範囲で、「こう捉えると楽かもね」といった提案をしてあげることも効果的です。
やりたいことをやって、自分を満たしてあげる
食べたいものや行きたい場所、やってみたいことなど、どんなに小さなことでも良いので少しでも「やりたい」と感じたら、その気持ちを大切にして実行する方法です。
そうするうち、「自分がやりたいことをやってもいい」「自分の気持ちは尊重されていい」という感覚が育まれます。
自分を受け入れてくれる環境に身を置く
成果や能力ではなく、「ありのままのあなた」を知って受け入れてくれる場所に身を置くという方法です。
「ありのままの自分が受け入れられる」という体験を繰り返すうち、「このままの自分でいいのかも」と思えるようになってきます。
上記の他に、カウンセリングも有効な手段の一つです。
あなたの自己受容を阻んでいるものはなんなのか、それを取り除くにはどうすれば良いのかを専門家と一緒に考え、取り組むことができます。
自己受容に関する私自身の体験をまとめたブログ記事もありますので、よければご参考にしてください。
おわりに
ありのままの自分を認めるのは、時には辛く苦しい作業です。「自分はもっと優れているはずだ」と思っていた方がよっぽど楽かもしれません。
しかし認めずにいると、理想とは異なる現実を突きつけられるたびにショックを受け、辛い思いをすることになります。
今そんな苦しさに悩んでいる方は、少しずつでもいいのでありのままの自分を認めて、抱きしめてあげてください。
この記事が、少しでもあなたの生きやすさにつながれば幸いです。